| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S08-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

生態資源をめぐる環境問題を生態学的に考える:草原と熱帯林の比較から

酒井 章子(地球研),石井励一郎(JAMSTEC)

地球研プロジェクト「人間活動下の生態系ネットワークの崩壊と再生」(代表 山村則男)では、モンゴルとマレーシア・サラワク州の生態資源に関わる環境問題を研究してきた。モンゴルでは、千年以上にわたって遊牧が行われてきたが、近年輸出用のカシミア生産のためのヤギの増加、また定住化や牧民の首都への集中が草原の劣化(被食からの回復力の低下、牧畜に適したバイオマスの減少)を引き起こしている。一方、サラワクでは、企業による森林伐採とプランテーションの開発のため、原生林が著しく減少している。原生林の縮小は、さまざまな生物群で生物多様性の低下を引き起こし、森林利用を妨げることで先住民村落にも大きな社会的変化をもたらしている。

プロジェクトでは、モンゴルの草原とサラワクの熱帯林の問題を比較し、モンゴルでは畜産物をグローバル市場に供給する企業が住民の草原の過剰利用を促しているのに対し、サラワクでは企業が森林資源を直接利用することで住民による利用を抑制している、という違いがあると考えた。この違いは、持続的利用に必要な方策とも関連している。モンゴルでは、もともと草原の劣化が生態系サービスの低下を介して住民の過剰利用を抑制する構造があり、それをうまく機能させることが持続的利用につながる。しかし、企業はその場所の生態系サービスに依存しないので、企業の過剰な利用を抑制する構造はない。したがって、サラワクでは、あらたなフィードバックを作るような仕組み、あるいは企業の活動を制限する政策が必要になる。

それでは、この構造の違いは、何に起因するのであろうか。企業が直接生態資源を利用するのか、住民を介して間接的に利用するのかを決める要因の一つは、利用効率を決める資源の分布様式であろう。さらに、企業参入以前の資源に対する所有権のあり方も、影響を与えると考えられる。

本講演では、このような草原と熱帯林の対比が、広く他の生態資源へも拡張できるのかについても検討する。


日本生態学会