| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S08-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

海洋生物資源の生態学的特徴と共有資源としての利用を巡る諸問題

白木原 国雄(東大新領域/大気海洋研)

1. 海洋生物の生態学的特徴 ー 陸上生物との比較

多くの海洋動物は浮いて暮らす.着底型の種であっても幼生期には浮遊生活を送るものが多い.海流を能動的に利用したり,海流により受動的に輸送されたりするために,遊泳力の弱い種でも長距離移動を行うことは稀でない.海洋動物は概して多産多死である.生息環境の変動に応じて,大量に生残したり,ほとんど死亡したりする.個体密度の時空間変動は概して大きい.

2.海洋生物資源の性質

海洋生物資源は伝統的に無主物とみなされてきた.さらに誰でも入り合って漁獲できるという条件も満たされると,資源を乱獲に導く経済的動機が存在する.回遊経路に沿った,あるいは小型魚・大型魚に対する先獲り後獲りの関係がある.日本では古くから漁村集落による地先海域の独占的利用が認められていた.現在でも沿岸漁業者は地先の資源は自分たちのものという意識を持っていると思われる.漁業協同組合に免許を与える共同漁業権も存在する.過剰な漁獲競争を避けるために,沿岸漁業者が収益をプールし公平に分配する制度もみられる.沿岸国は200海里の排他的経済水域を設定でき,そこでの資源の利用に関して主権的権利を有する代わりに管理の義務を負うようになった.権利の及ぶ海域はおおよそ存在するが,境界を認識しにくかったり曖昧であったりする.

3.共有資源としての利用を巡る諸問題

資源を巡って競争関係にある漁業者が資源を共有資源とみなす発想は生じにくい.漁業者がこの発想を受け入れるためには,小型個体の獲り控えが大型となった個体をより多く漁獲できる,親の獲り控えが次世代の個体を増加させることを示すなど,収益の面で不利にならない動機付けが必要がある.一方,海洋は漁業者だけのものではなく,人類の共有財産との認識が強まっている.大規模な海洋保護区を設置する動きが強まっている.資源の管理のみならず合理的な資源配分の検討が重要な課題である.


日本生態学会