| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T05-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

全国スケールにおける人為的放流と絶滅がもたらす淡水魚類群集の機能的多様性の変化

*松崎慎一郎(国環研), 佐々木雄大(東北大・院・生命), 赤坂宗光(東大・農)

純淡水魚類群集は、外来種の侵入や生態系改変による局所絶滅の結果、過去に比べて種組成が大きく変化している。日本でも、ブラックバスなどの外来種の放流が頻繁に行われている。また、アユなどの増殖を目的とした放流が全国で行われており、それらに混入した在来魚が本来の分布域を超えて広がっている(国内移入種)。一方、スゴモロコのように局所絶滅した種も報告されている。

本研究では、こうした人為的な種組成の変化の結果、純淡水魚類群集の機能的多様性(以下、FD)が地域スケールでどのように変化したか明らかにするために、全国27のエコリージョンの過去と現在のFDを比較した。エコリージョン区分および各地域の種組成はWatanabe et al.(2011)に基づき、FDは形態・摂餌・餌資源や生息場所の利用・繁殖などに関わる15の特性から算出した。

いずれの地域でも、移入による種数増加に付随して、FDは過去に比べて大きく増加していた。FDの観測値は、種数増加に伴いFDが偶然に増加する仮定で算出した期待値よりも大きかった(ニッチ分割を示唆)。国内移入種と外来種を切り分けて解析した結果、外来種の種数増加のほうがFDの増加に相対的により大きく貢献していたことから、外来種が侵入することで、群集は機能的により異質な方向へシフトする可能性が考えられた。また現在では局所絶滅はほとんど起きていないが、今後の環境改変で起こりうるシナリオは想定できる。そこで、絶滅危惧種をランダムに絶滅させるシミュレーションを行った結果、全ての地域で、種数の減少に伴いFDが直線的に減少したことから、機能的な冗長性は低いと考えられた。

数種の移入や絶滅がFDの増減に大きく影響する可能性を示した本研究は、地域固有な魚類相と生態系機能の保全に重要な示唆を与えている。


日本生態学会