| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T14-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

クライン研究の現状とインフラ整備の必要性

*鶴井香織(弘前大)・高橋佑磨(東北大)・森本元(立教大/東邦大)

クライン研究は「クラインの形成および維持メカニズムの解明」と、「クラインを利用した適応進化の解明」に大別できる。

量的形質にしろ、質的形質にしろ、対立遺伝子にしろ、これらがクラインを形成し維持されるために重要なメカニズムが2つある。1つは、個体群間の差異が生じ維持されるメカニズムであり、もう1つは、形質や遺伝子頻度が地理的に連続した変化を示すメカニズムである。前者は、種分化を含む生物の多様化の促進および維持メカニズムと共通して、個体群間の差異化を促進する隔離および差異化を打ち消す遺伝子流動の役割が主に議論されてきた。後者はクラインが独自に有する問題であり、選択圧の勾配、由来の異なる個体群の二次的接触、遺伝子流動による混合などのメカニズムが議論されてきた。上記の各要因について野外で直接検証することが困難なため、断片的なケーススタディや理論研究による予測をもとに理論が組み立てられているのが現状といえる。これまでのところ、クラインが形成・維持されるメカニズムは複数あり、観察されるクラインから背景にあるメカニズムを1対1で絞り込むことはできない。

一方で、適応進化のメカニズムの解明を目的としてクラインを利用した研究では、形質や遺伝子頻度に見られるクラインを選択圧の勾配に応じて生じた結果としてとらえ、比較実験の結果のように扱う。このような研究アプローチは、クラインの起源や維持メカニズムが明らかになっており、選択圧の勾配以外の要因によって形成された可能性を排除できる場合にのみ適用できる。しかし前述のように、クラインとその形成要因は1対1の関係でないため、形質の勾配と選択圧の勾配に相関があったとしても因果関係があるとは言い切れない。クラインから誤った推測をしないために、また、クラインからより多くの重要な洞察を得るために、クライン研究のインフラ整備が急務となっている。


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