| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T16-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

側所的分布の成立過程におけるニッチ分化の役割:捕食性歩行虫の場合

*高見泰興(神戸大)・大澤剛士(農環研)

近縁種の分布域は重ならず,狭い境界域をはさんで側所的に接することが多い.このような側所的分布をもたらす要因には,内的なものと外的なものがある.内的要因は,交雑による雑種適応度の低下,資源競争や繁殖干渉による競争排除といった種間の相互作用により,2種が共存できない状況を生みだす.外的要因は,生物と環境の相互作用によるものであり,利用する資源や生息に適した環境の境界が,生物の分布境界を決める要因となる.二つの要因は,同時にはたらきながら側所的分布の成立に寄与していると考えられる.

内的要因は,実験室内での飼育や交雑実験によって比較的容易に調べることができる.一方,外的要因は野外における生息環境とそれに対する生物の反応を測定することが必要なため,食草分化のはっきりした食植性昆虫や,限られた調査範囲においてのみ研究が可能だった.しかし近年の地理情報システムと統計手法の発展により,広域の分布記録とデータベース化された環境データから,現実的な予測力を持つニッチモデルを構築することができるようになってきた.本研究ではこの手法を用いて,捕食性歩行虫のイワワキオサムシとマヤサンオサムシの側所的分布について,外的要因の解明を試みた.

イワワキオサムシとマヤサンオサムシは,近畿地方の中部で南北に分布を接している.交尾器形態の不一致による機械的隔離が内的要因としてはたらくことが既に知られている.さらに,分布境界は複雑なモザイク状であり,外的要因の関与が示唆される.文献から得た分布データと,標高,年平均気温,地形的湿潤度指数から各種のニッチモデルを構築したところ,種間には有意な違いが見いだされた.これは,側所的分布の成立に外的要因(生態ニッチ分化)が寄与していることを示唆する.これらの結果を元に,進化生態学におけるデータベースとニッチモデルの有用性について議論したい.


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