| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T16-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

飛翔能力の退化と分布変遷が甲虫の種分化に与える影響

*池田紘士(森林総研)・西川正明(海老名市)・曽田貞滋(京大・理)

昆虫は、100万種近くが知られる非常に種多様性の高い分類群である。昆虫において約4億年前に生じた飛翔能力の獲得は、様々な地域、ハビタットへの分布拡大を可能にし、昆虫の初期進化における種多様性の増加に大きく貢献したと考えられている。しかし、飛翔器官の形成及び維持には多くのエネルギーが消費されるため、様々な分類群で飛翔能力の退化が生じている。飛翔能力の退化は分散能力を低下させるので、これが退化した種では個体群間の分化が生じやすい。そのため飛翔能力が退化した系統においては、異所的種分化が生じやすいことが予想される。

本研究では、甲虫目シデムシ科ヒラタシデムシ亜科を用いて、飛翔能力の退化は地理的分化をもたらすのか、これによる異所的種分化は種多様性の増加をもたらすのかについて検証した。その結果、飛翔筋の無い種の方が個体群間で遺伝的に分化しており、飛翔筋の退化後の方が種分化率は高いことが明らかになった。さらに、GISデータをもとに各種の現在及び最終氷期の分布域を推定して、気候変動による分布変遷が個体群間の遺伝分化と種分化に与える影響について解析を行ったが、これによる影響は認められなかった。また、甲虫目15科51種のCOI領域のデータを用いたメタ解析においても、飛翔能力が退化した種の方が個体群間の遺伝分化は大きいという傾向がみられた。甲虫目は昆虫の中でも比較的最近に生じた目であるが、それにも関わらず昆虫全体の種数の40%を占める。多くの系統で生じた飛翔能力の退化が、甲虫における急速な種多様性の増加の主要因の一つとなってきたことが、本研究によって初めて明らかにされた。


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