| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T19-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

はじめに-生活史の多様化に見られる迅速な適応性

嶋田 正和 (東大・総合文化・広域)

生物が環境に適応する現象については、長らく進化的適応での文脈で語られ、1960年代~70年代に勃興した進化生態学、行動生態学、社会生物学などは、いずれも進化の総合説の突然変異-自然選択理論を基盤として生物の適応度・繁殖成功度の解析を進めてきた。もちろん、生物の適応を進化的適応で理解することは大枠としては正しい。しかし一方で、1世代で環境に迅速に順応でき、その性質が数世代続く現象(獲得形質が遺伝するかのように見える)である表現型可塑性(エピジェネティクス)を、どのように考えたらよいだろうか?また、環境×遺伝交互作用(反応基準)自体も迅速に進化する事例があるが、これをどう理解したらよいか?

これには、Baldwin (1896)が最初に有機的選択の概念(ストレス環境での生理的適応が進化的適応を推進する)を出し、1930年代にSchmalhausenが提唱した表現型可塑性における反応基準(遺伝×環境相互作用パターン)へと引き継がれ、Waddington (1953)の提唱した遺伝的同化へと続く系譜がある。21世紀になりWest-Meberhard(2003)の遺伝的順応、Kirshner and Gerhart (2005) の促進的表現型変異生成理論、Lande (2009)のBaldwin効果の量的遺伝モデル等が発表され、隆盛となった。

今回の「迅速な適応性(第4回)」では、「生活史における多様な対応」と題して、ショウジョウバエ近縁種の食性多様化の遺伝的メカニズム、植物の花成のエピジェネティクス、そしてアブラムシにおける生活史多型の迅速な多様化を取り上げる。ここから背景にある迅速な適応のメカニズムを探っていきたい。


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