| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T19-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

植物の花成におけるエピジェネティックな制御システム

後藤 弘爾 (岡山県生科研)

植物の成長過程において、茎頂分裂組織(芽)から葉が分化する栄養成長相から、花芽が分化する生殖成長相への転換を“花成”と呼んでいる。適切なタイミングで花成を行うことは、植物の繁殖戦略にとって重要であり、花成は高度な制御をうけている。モデル植物、シロイヌナズナを用いた研究から、花成制御のパスウェイには、日長を感受する光周期応答経路、一定期間の低温(即ち冬)を感受する春化応答経路、植物の成長に伴って花成が起きる自律的経路、植物ホルモンの一つ、ジベレリンに応答する経路の4つあることが明らかにされた。それぞれの経路の遺伝子群がクローニングされた結果、花成制御はフロリゲン、FTの発現を促進するか、抑制するかに集約されているということが分かってきた。

花成に影響を与える環境要因は、主として日長と温度である。特に、秋に発芽して越冬し、次の春に花成を行う冬季一年生植物や多年生植物は、日長に加えて冬を経験すること、即ち一定期間の低温刺激が花成のために重要である。こうした長期間の低温によって花成が促進される現象は“春化”と呼ばれている。春化応答は、体細胞分裂を通しても細胞に記憶されているが、減数分裂により生じた次世代には伝わらないなど、典型的なエピジェネティック現象の特徴を示す。実際、シロイヌナズナを用いた研究によって、越冬前はFLCと呼ばれる転写抑制因子がFTの発現を抑制しているが、春化応答によりクロマチンレベルの変化が起き、FLCの発現が抑制される結果、FTの発現が上昇し、花成が起きることが明らかにされた。この仕組みは多年生のシロイヌナズナ近縁種でも保存されている一方で、コムギにはFLC遺伝子は存在せず、別の遺伝子セットの働きにより春化が起きることが知られている。

植物の春化応答の分子機構を紹介すると共に、環境応答の多様なメカニズムについての話題を提供したい。


日本生態学会