| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T20-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

異なる標高の湿原における群集構造と光をめぐる種間相互作用

*神山千穂(東北大)

環境と植物の形質は密接に関連している。群集内では、環境変化に伴う植物種の形質変化が、種間相互作用の変化を介して種組成の変化をもたらす。群集内には異なる形態や生理的特性、季節性を持った種の共存がしばしば観察され、それらの違いによる時空間的な資源の棲み分けが種の共存を可能にしているとされる(ニッチ理論)。本研究では、植物にとって必要不可欠な資源の一つである光に着目し、標高による温度環境の違いが、各種の光の獲得と利用に関わる形質にどう影響し、最終的にどう光合成量に影響しているかを調べ、各種の形質の違いが種の共存や分布の違いを説明するかについて調べた。調査は、冷涼な気候条件の下に成立し、温度変化の影響を強く受ける生態系の一つと考えられている山岳地の湿原群集(青森県八甲田)を対象に行った。背丈が低く、小さくて厚い常緑性の葉を持つ種は、高標高の湿原に多く出現する傾向があった。次に、各種について、相対光合成量(葉のバイオマスあたりの光合成量)を、光獲得効率(葉のバイオマスあたりの光獲得量)と光利用効率(光獲得量あたりの光合成量)の積として求め、両者が相対光合成量にどう影響しているかを調べた。8月の相対光合成量は落葉種に比べて常緑種で低く、これは低い光獲得効率に起因していた。しかし、常緑種の長い葉寿命と春先の高い光獲得効率が影響し、高標高では、生涯の相対光合成量が種間で異ならないことが分かった。一方で、低標高では、常緑種の生涯の相対光合成量が、落葉種に比べて低く、低標高での生存が不利であることが示唆された。八甲田の湿原では、このような標高間の光をめぐる種間相互作用の違いが、高標高ほど常緑種の種数やバイオマスが増加するという群集構造の傾向を説明しているかもしれない。このことは将来の温暖化によって、生長を維持できなくなった常緑種が群集から排除される可能性を示唆している。


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