| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨


宮地賞受賞記念講演 3

巻貝の中に広がる寄生虫の世界

三浦 収 (高知大学総合研究センター)

Inside snails: the amazing world of parasites
Osamu Miura(Science Research Center, Kochi University)


寄生虫は、古くから人間や家畜に感染し深刻な病気を引き起こしてきた。このような背景から寄生 虫は主に医学や農獣医学的な視点から研究されてきた。しかし近年、寄生虫を生態学的な視点から扱 った研究が注目を集め始めている。演者は、巻貝とそれに寄生する二生吸虫が織りなす特殊な相互作 用に着目して研究を行ってきた。本発表では、演者が取り組んできた一連の寄生虫研究を紹介すると ともに、生態学的な観点から見た寄生虫の魅力を紹介したい。

小さい巻貝の中で生活する二生吸虫の大きさは1 ミリにも満たない。しかし、小さく単純に見える その体からは想像もできないほど、二生吸虫はとても複雑な生活様式を持っている。例えば、潮間帯 の巻貝に感染する二生吸虫は、第二中間宿主として魚類や甲殻類に感染し、そして終宿主として鳥類 に感染する。このように、複数の宿主を渡り歩く独特な生活様式を持つことから、二生吸虫はそれぞ れの宿主と特殊な関わり合いを発展させてきた。

この複雑な生活様式を通して眺めてみると、二生吸虫や巻貝の生態をより深く理解することができ る。このような視点から演者は、寄生虫の感染により宿主の形態や行動様式が変わることや、外来宿 主は外来寄生虫の新たな侵入を促進することなどを明らかにしてきた。

また、宿主との特殊な結びつきは、二生吸虫の進化のパターンにも大きな影響を与えている可能性 がある。宿主が種分化をした場合に、その変化にどのようにして二生吸虫は適応してきたのであろうか。 演者は、パナマ地峡の形成により種分化した巻貝に寄生する二生吸虫の遺伝子を調べて寄生虫の遺伝 的分化のパターンの解明を試みている。

寄生虫の生態学は分からないことが多い未開拓の研究分野であるため、日々の研究は驚きや発見の 連続である。これからも寄生虫の生態学研究に積極的に取り組み、一つでも多くのことを明らかにし ていきたい。

日本生態学会