| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-07 (Oral presentation)

小笠原諸島媒島におけるノヤギ駆除前後の土地被覆変遷パターン

*郡 麻里,畑 賢治,高岡 愛,可知直毅(首都大・院・理工・生命)

小笠原諸島北部の聟島列島・媒(なこうど)島は、かつて人が持ち込んで放置したヤギ(以下、ノヤギ)による植生の食害と踏圧による地表撹乱が激しく、ノヤギ完全駆除後の現在においても土壌浸食が続いており、一部は基岩が露出した状態にある。さらに、媒島の草地にはオガサワラビロウやタコノキなどの木本植物の残骸が確認できることから、本来は森林が成立していたことがうかがえる。

Hata et al (2007)を参考に、どのような撹乱履歴の立地に現在どのような植生が成立しているか、および今後の植生の定着・回復の可能性を把握するため、1)過去に撮影された4年代の空中写真を幾何補正し、地理情報システム(GIS)上で土地被覆の比較を行い、2)現地調査(植生、土壌、海鳥営巣痕跡等)をランダム地点および25mグリッド上において実施し、GPS座標で対応させることで画像判読の地上精度確認を行い、3)東京都による砂防・植生回復事業の際に得られたLiDAR航測による詳細な地形情報を活用し、微地形の起伏が土地被覆の変遷と現存植生にどのように影響しているかを一般化線形モデルで解析した。

ノヤギ駆除後の植生(草地)の被覆面積は若干増加傾向にあったものの、10年後以降の増加が見られず、一方で裸地の面積にも変化が見られなかった。すなわち、一度赤土が露出した急傾斜地においては植生は新たに定着しにくいことが判明した。イネ科草本については高岡ら(2011)が各GPS地点の土壌を用いた栽培実験により潜在的植生回復力について検討しているが、地形を考慮すると、むしろ土壌の垂直方向の物理的浸食が植生回復を困難にしている状況が示唆された。今後も定期的に地表計測を行えば、将来のオオハマギキョウなどの希少植物の定着可能性、樹木個体群の存続可能性、海鳥の再定着の可能性やその影響などをより定量的に推定することが可能となる。


日本生態学会