| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) C2-18 (Oral presentation)

寄生虫群集の変異性を探る――特に、ニホンウナギの生活史多型に着目して――

*片平浩孝, 長澤和也

自然界には寄生虫がついていない生物はいないと言われるほど、すべての生物にとって寄生虫はありふれた存在である。宿主一個体に複数種の寄生が見られることは普通のことであり、宿主はいわば「寄生虫をのせた乗り合いバス」のごとく、それぞれの個体で異なる寄生虫群集を有している。

これら群集の種組成や多様性を知ることは、寄生虫学における課題の一つであるとともに、生態系を構成する生物群集全体の成り立ちを真に理解するうえで必要不可欠である。しかしながら我が国では、寄生虫相の解明が未だ途上であることに加え、個々の寄生虫や特定の分類群に限定した生態研究が好まれてきた。そのため、複数の分類群を扱う群集生態学的取り組みは全く進展していない現状にある。

そこで我々は、国内における研究の布石として、寄生虫相研究が比較的進んでいるニホンウナギをモデル宿主に選び、調査を進めている。本研究では、愛媛県愛南町の御荘湾およびその流入河川に生息するニホンウナギの消化管と鰾から得られた内部寄生虫17種(吸虫8種、条虫4種、線虫2種、鉤頭虫3種)を対象に、個々のニホンウナギにおける種多様性パタンを明らかにすることを目的とした。

調査地のニホンウナギは、4タイプの生活史型(河川で生活、河口域で生活、一度河川で生活したのち降河し湾で生活、一度も淡水域に入らずに湾で生活)を示すことが明らかとなっている。これら生活史型間で寄生虫群集を比較したところ、1)移動性の高い生活史の個体ほど多くの寄生虫種が出現する、2)河川に比べて湾で生活する個体のほうが複数の寄生虫に寄生される傾向が認められた。生活史多型は様々な生物で見られる現象であるが、複雑な生活史をもつ他の宿主生物においても、本結果同様それぞれの生活史型に対応した寄生虫の群集パタンが成立しているかもしれない。


日本生態学会