| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) C3-35 (Oral presentation)

ウナギ標識コホートの生態過程

立川賢一・中島敏男(流域総合研究所)

【目的】 ウナギ資源が危機的状況に陥った主な原因の一つとして、生活場所破壊が挙げられる。しかし、河川におけるウナギ資源に関する生態的知見は乏しい。私達は、ウナギの生残や成長などの生態過程を知るためにウナギのコホート(同年齢個体群)を標識放流し、長期間追跡調査した。

【方法】 当歳の養殖ウナギを高知県物部川の河口から上流方向約3km地点で、2000年に右胸鰭を切除した7977尾(00群)と、2001年に左胸鰭切除の7989尾(01群)を放流した。平均全長は、00群は34cmで、01群は22cmであった。河口から堰まで約7kmの流域で、川漁師に依頼して木製トラップを設置し、標識ウナギを再捕した。7年間の現場調査以降、現在まで情報収集してきた。

【主な結果と考察】 1)生残過程:00群の再捕尾数は、放流年の94尾から6年後の1尾まで年々減少し、それ以降の再捕はなかった。再捕尾数の7年間の瞬間減少率は0.34であった。一方、01群は、放流年の2尾から5年後の34尾まで再捕尾数は年々増加したが、これは漁具選択性によると考えられた。その後、再捕尾数は年々減少したが、2008年と2009年は再捕がなかった。これには濁水等の河川環境悪化などが影響していた。10年後に2尾と、その翌年に1尾の再捕があったものの、2012年は再捕がなかった。2005年以降2012年までの瞬間減少率は0.21であった。放流後11年間定住した個体がいた。 2)成長過程:01群ウナギの平均全長は、5年後に34.5cmとなり、放流時の00群とほぼ同じとなった。 3)考察:当歳ウナギの放流によりウナギ資源への添加が期待される。ウナギ資源回復の目的で生残率や成長率を高めるには、ウナギの住める生活環境に河川を取り戻すことが喫緊の課題である。


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