| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) D2-21 (Oral presentation)

ニホンザルは何を手がかりにして、群れのまとまりを保っているか?

*杉浦秀樹(京都大・野生動物),下岡ゆき子(帝京科学大・生命環境),辻大和(京都大・霊長研)

動物は、どのようにして、群れのまとまりを維持しながら移動しているのだろうか?例えば、魚の群れでは、自分のごく近くの数頭との近接を保つように、自分の動きを合わせていて、非常に同調性の高い動きをすると考えられている。一方、ニホンザルのような、安定したメンバーで集団を作る霊長類では、一見したところ、それぞれの個体が好き勝手なことをしており、同調性は高くない。それでもバラバラになることなく、群れとしてのまとまりを保って移動している。群れがどのようにまとまりを保っているかを探るため、野生ニホンザル1群を対象に観察を行った。

対象は宮城県金華山島に生息する、約40頭のニホンザルの1群である。この群れの成体メスを対象に、2個体を同時に個体追跡し、GPSにより個体の位置と対象個体の周囲20mにいる個体数を記録した。

第一に、自分の近くにいる仲間を手がかりに、仲間との近接を調整している可能性がある。自分の周囲20m以内の仲間の数が少ないほど、10分後には増える傾向があった。やはり近くにいる仲間を手がかりに、近接を調整していると言える。

第二に、群れの全体的な広がりも手がかりにしている可能性がある。追跡している2頭の距離が離れるほど、10分後にその距離が縮まる傾向があった。この距離変化は、自分の周囲20mの個体数だけでは説明できなかった。森の中ではお互いの動きを直接見ることが難しい程に離れている場合(例えば40m以上)でも、距離が近づく傾向は一貫して観察された。

遠くにいる個体を直接、手がかりにしているというよりは、周辺部から中心部へ向かうために、このような動きが起こっているのだろう。ニホンザルは自分の周辺の個体に加えて、群れの中での自分の位置を把握し、移動を調整していると考えられる。


日本生態学会