| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-01 (Oral presentation)

植物の匂いを介した血縁認識

*塩尻かおり(京大・白眉), Richard Karban(UC Davis,Entomology), 石崎智美(新潟・理)

植物は傷ついた別個体の植物から放出される匂いを受容することで、植食者に対する抵抗性をもつことが知られている。これは植物間コミュニケーションと呼ばれ、これまでに10種以上の植物で確認されている。

縁者らは、野生のセージブラシ (Artemisia tridentate)を用いて、植物間コミュニケーションの研究を行ってきており、放出される匂いは個体によって著しく異なっていること、そして、この匂い類似度と血縁度の間に正の相関関係があることを報告してきた(2009.同学会盛岡大会)。さらに、同一遺伝子個体(クローン)の匂いを受容した場合、別遺伝子個体の匂いを受容したときよりも、抵抗性が高く植食者の被害を受けにくくなることも明らかにした(Ecology Letters.2009)。これらの結果は、セージブラシが自己の匂いを認識し、誘導反応を引き起こしていることを示唆している。

そこで、血縁度と匂い類似度の相関から、セージブラシが匂いで血縁認識をおこなえるという仮説のもと、2年間にわたって以下の2つの野外実験をおこなった。1)ある個体株の別の枝に血縁の遠いクローン株と血縁の近いクローン株の匂いを24時間受容させ、3・4ヵ月後のその枝の葉の被害率を調べる。2)血縁度のわかる2個体間で一方の個体から匂いをとり、それをもう一方の個体にその匂いを24時間受容させ、3・4ヵ月後の受容個体の被害率を調べる。この結果、血縁度の高い組み合わせで、被害率が低くなった。さらに、我々はセイタカアワダチソウ(Solidago altissima)においても、全く同様の結果を得た。

これは、植物間コミュニケーションの適応的意義を解明する一つの重要な手がかりであるだけでなく、植物が血縁を匂いで認識するという植物の新たな能力を明らかにした研究である。


日本生態学会