| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-02 (Oral presentation)

異なる標高における植物の温度感受性評価

唐 艶鴻(国環研)*,李瑞成 (中国科学院・大学院),広田 充(筑波大学),羅 天祥(中国科学院・チベット研究所)

温帯地域植物の展葉時期(葉展開のタイミング)は、春先の気温変化によって変化する場合が多い。同じ程度の温度変化に対しても展葉時期の早まりまたは遅延の時間は植物の種類や生育環境の気象条件によって異なり、すなわち、展葉時期の温度感受性が異なる。

標高の高い場所に生育する植物は、標高の低い場所の植物に比べ、生育期間が短い。従って生育期間中さまざまな資源を効率的に利用するため、高標高植物の展葉時期の温度感受性は高く、少ない温度の変化に対しても展葉時期の素早く変化が可能であれば有利と考えられる。一方、高標高のところでは、気温環境の変化が常に大きいために、無駄な応答を避け、展葉時期の温度感受性が低い可能性も考えられる。しかし、実際の展葉期と標高の関係はどのようになっているかについては、まだ明確にされていない。また、標高分布の広い植物種は、適応している温度環境が広いために、限られた標高に分布する種と比べ、展葉時期の温度感受性が低いことも予想される。

本研究では、以上のような仮説を検証する。我々は、2006年から2012年までの間、チベット高原の当雄で標高4300mから5200mに分布する40種の草本植物の展葉時期について連続観測を行った。その結果、同じ斜面に生育する植物の展葉時期の温度感受性は種によって大きく異なり、高い標高に生育する種は展葉時期の温度感受性が高い傾向がみられた。一方、標高分布範囲の広い種は気温の年変動に対する温度感受性が低下する傾向も示された。

このような結果に基づき、温暖化に伴う異なる標高の植物展葉期の変化が高山植物群落の種多様性の変化や植生の標高方向への移動にどのような影響を及ぼすかついて議論を展開する。


日本生態学会