| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-14 (Oral presentation)

光合成誘導反応の制限に及ぼす高CO2環境の影響

冨松元・唐艶鴻(国立環境研・生物)

自然環境下では光強度は時間的に大きく変化する。特に、光照射に対する光合成速度の増加過程(光合成誘導反応)は、植物の炭素獲得効率に強く影響する。この光合成誘導反応は様々な環境条件下で変化し、高CO2環境下での加速が報告されている。しかし、高CO2環境下での光合成誘導反応の応答過程、メカニズム及び生態学的意義については不明なところが多い。そこで、気孔を開放したままのシロイズナズナ変異体(SLAC1-5)とその野生株(WT)を供試することで、光合成誘導における気孔制限と生化学制限を分離抽出し、高CO2環境による光合成誘導反応の加速メカニズムを評価した。

供試植物は、上記シロイヌナズナ2種(SLAC1-5とWT)を3つのCO2濃度環境下(400、700、1000 μmol mol-1)で約1カ月間生育させた。光合成誘導反応は、生育CO2濃度と同じCO2濃度条件下で、光強度を20から800μmol mol-1へと上昇させることで計測した。また、異なる2つのCO2環境下(400と700 μmol mol-1)で生育させたシロイヌナズナ2種を、それぞれ同じCO2濃度(400 μmol mol-1)で計測することで、高CO2環境に対する植物馴応の影響抽出を試みた。

その結果、シロイヌナズナ2種の最大光合成速度の50%に達するまで要する時間は、WTが123.9秒、48.6秒、35.2秒、SLAC1-5が84.7秒、51.1秒、45.2秒(それぞれ400、700、1000 μmol mol-1)となり、CO2濃度の増加にともなって光合成誘導反応が加速した。また、気孔と生化学の両制限を伴うWTは、主に生化学制限に律速されているSLAC1-5と比べて、高CO2に伴う加速が大きかった。さらに、光合成誘導反応の高CO2順応がWTでのみ認められたことから、高CO2馴応に対する気孔の重要性が示唆された。


日本生態学会