| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) E3-33 (Oral presentation)

果実の香りの多様性とその適応的意義を探る

*米谷衣代 (京大・生態研),直江将司(東大・農),高林純示(京大・生態研)

動物による種子散布は、植物が果肉を動物に提供する代わりに種子を運んでもらうという共生的な生物間相互作用である。この場合、散布する動物の特性(果実の好み、行動範囲など)と果実の形質が種子散布に影響するとされている。これまで、種子散布者である鳥類は主に色覚を利用して餌である果実を探していると考えられてきたが、近年、人間以上の鋭敏な嗅覚を持つことが明らかになってきた。そのため、もし多様な果実の香りとその特異性が特定の好適な種子散布者を誘引するならば、果実の香りの多様性は、種子散布者との共進化の結果として説明できるかもしれない。しかし、種子散布の研究において、香りという形質に注目した研究はほとんどない。本研究の目的は、果実の形質と散布者との共進化関係を解明する研究に、香りという新しい方向性を示すことである。我々は、茨城県北茨城市、小川群落保護林と周辺の森林群集において動物散布の植物約20種を対象に果実の詳細な香りを分析した。調査は2011年10月と2012年6月から11月にかけて定期的に行った。1種あたり3-5個体から果実を採取し、香りを捕集、ガスクロマトグラフ質量分析計で分析の後、構造を推定した。本発表では、多変量解析により、種間、種内の香り成分の組成の比較を行った結果を発表する。全体の傾向として、各植物の果実の香り成分の構成比や量(香りの質と量)が同科の種間であっても異なる。一方、同じ属に属すニガイチゴとクマイチゴから放出される成分はほとんど同じであった。しかし、成分全体の総量に対する各成分の割合が異なる傾向がみられた。このように、系統的に近いほどよく似た香り成分が放出されている可能性があるが、各成分の割合が異なる可能性が示唆された。さらに、果実の香りと果実の質の関係を解析し、果実の香りが果実の質を種子散布者に示すシグナルとして働く可能性を検討した結果を報告する。


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