| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G1-04 (Oral presentation)

細胞性粘菌の化学物質を利用した利他行動の進化モデル

*内之宮光紀(九大・シス生), 巌佐庸(九大・理)

キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum)は通常は単細胞で生活しているが、バクテリアなどの餌が不足すると多数の細胞が集まり胞子を飛ばすための器官である子実体を作る。子実体は次世代に子孫を残す胞子と胞子を支える柄の部分に分かれている。柄は子孫を残せないため、子実体形成は一種の利他行動である。子実体は単独の系統によって作られることが多いが、複数の系統が混ざって作る場合もある。細胞が胞子と柄に分化する際にはDIF-1と呼ばれる化学物質が重要な働きをする。DIF-1は胞子になる細胞から分泌され、細胞が柄に分化するのを促す。子実体形成の進化に関する多くの理論研究は、胞子と柄の比率は系統で固定されているとし、DIF-1などによる調節メカニズムを考えてこなかった。

本研究では子実体形成における胞子と柄の分化に関して、DIF-1を考慮した数理モデルを紹介する。このモデルでは時間とともに胞子と柄の比率は一定の値に落ち着き、これは細胞の初期状態には依存しない。また、総細胞数を増やしても胞子と柄の比率は一定に保たれる。これらは実際に観察されている現象と一致する。次に、このモデルを用いてDIF-1の分泌とDIF-1に対する感受性がどのように進化するかを調べた。DIF-1の分泌にコストがかかるとすると、単一の系統で子実体を作る場合には最適な胞子と柄の比率を保ちつつ、DIF-1の分泌を減らして感受性を高めるように進化する。しかし、複数の系統が混ざって子実体を作ることがあると、より多くのDIF-1を分泌して相手を柄に分化させるような系統が進化する。このとき、感受性は低下しており、胞子と柄の比率は単独で子実体を作る場合とほとんど変わらない。


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