| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-19 (Oral presentation)

アリ類の触角形態の性分化における遺伝子発現制御

*笹 千舟 (北大院・環境), 宮崎 智史 (富山大・理), 東 正剛, 三浦 徹 (北大院・環境)

社会性ハチ目は生活史における雌雄の役割が大きく異なり,性的二型が顕著であることが知られる.特にアリは嗅覚に依存した個体間コミュニケーションを行うことから,伝達される情報や行動様式の性差を反映するように触角形態に顕著な性差が見られる.アリの社会性進化においてこのような性的二型形質の獲得は極めて重要であり,その発現機構を解明することで,社会性ハチ目における社会性維持機構の理解に繋がると期待される.そこで本研究では,アリの中でも形態の性的二型が特に顕著なトゲオオハリアリ Diacamma sp. を用い,触角形態の性分化に関与する遺伝子の探索及び発現解析を行った.

本種の雌は12節から構成されるL字型の触角を,雄は13節から構成されるムチ状の触角を有する.これまでの筆者らの組織形態学的解析から,成虫で最も顕著な性差は触角第一節長に見られ,この性差は4齢幼虫期に生じることが明らかになっている.そこで,4齢幼虫の触角原基における性決定遺伝子及び形態形成遺伝子(計10遺伝子)の発現量をreal-time 定量PCRを用いて解析し,雌雄で比較した.その結果,性決定遺伝子doublesex (雌型アイソフォーム) や昆虫の付属肢基部を形成するhomothoraxが雌で多く発現し,性決定遺伝子doublesex (雄型アイソフォーム) や昆虫の付属肢中位部,遠位部を形成するdachshund , Distal-less が雄で多く発現していた.これらの結果より,性決定遺伝子が下流の形態形成遺伝子の発現部位を調節することで,触角の発達を性特異的に制御していることが示唆された.


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