| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-21 (Oral presentation)

タナゴ (Acheilognathus melanogaster) の遺伝的構造:地域系統と水系との関連

*長太伸章(東北大・生命),北村淳一(三重県博)

地理的障害は異所的な分化をもたらす最も大きな要因であり、その規模の大きさから様々な生物に影響を与え地域ごとの生物相の分化をももたらす。純淡水魚は淡水域内でのみ移動分散が可能なため、海や陸地といった地理的障害が隔離機構として特に大きく機能している。そのため、日本列島の淡水生物相の成立過程や影響を及ぼした地史的イベント、地形などを明らかにするのに適している。日本列島では、フォッサマグナや中部山岳地帯を境に多様性が豊富な西日本で多くの魚種で遺伝的構造が明らかとなり、古くから成立していた琵琶湖や環伊勢湾の特殊性、氷期に陸化した際に瀬戸内海にあった河川による分散などが示されている。しかし、東日本では分布する種数の少なさもあり研究の蓄積が少なく、地史の効果などはあまり明確になっていない。

タナゴAcheilognathus melanogasterは関東から東北にかけての太平洋側に分布するため、東日本の太平洋側の水系間の関係や生物相の成立を推定する上で適した種である。また、タナゴ類は産卵基質として淡水二枚貝が必須なため水質汚濁や河川改修の影響を受けやすく、さらに外来魚による捕食などの影響もあり、近年急速に数を減らしている分類群である。本種も絶滅危惧IBに指定されており、ESUの設定など面からも地域集団間の遺伝的多様性や分化を解明する必要がある。

本研究ではミトコンドリアと核の複数遺伝子に基づいた系統地理解析を行い、東日本における本種の遺伝的構造を明らかにした。その結果、本種では核遺伝子の分化はほとんど見られなかった。しかし、ミトコンドリアの遺伝子では東北と関東で遺伝的に大きく分化しており、さらに福島県の太平洋側の集団も小さいものの遺伝的な分化がみられた。これらの分化は地史を反映した水系との関連があると考えられる。


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