| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G3-28 (Oral presentation)

樹木更新サイトとしての枯死木の利用率と樹種組成との関係

*井上太樹(北大・環境科学), 吉田俊也(北大・FSC)

倒木は、北方林を中心としていくつかの樹種にとって更新サイトとして機能しているが、樹種によって倒木への依存度は異なることが知られている。また、更新サイトとしての倒木の質(以下、倒木の質)は、倒木の生物的・非生物的な環境によって変化するため、倒木の質は空間的異質性を持つ。このことから、倒木の質の違いが、樹種間での倒木への依存度の違いを通して林分の樹種組成に影響を及ぼしている可能性が考えられる。そこで、本研究では、倒木への依存度が異なるAbies(依存度が低い;トドマツ)とPicea類(依存度が高い;エゾマツ、アカエゾマツ)を用いて、林分における倒木の質と樹種組成との関係を評価した。調査は北海道北部に位置する北海道大学雨龍研究林および中川研究林の複数の長期観察林で行った。合計14の観察林内に0.25 haの調査区を設置し、樹高2 m以上のAbies、Picea類を対象に更新サイト(倒木 or それ以外)を記録した。Abiesの倒木更新個体の割合を、その調査区における倒木の質の指標とし、各調査区の樹種組成との関係を検討した。各調査区のAbies、Picea類の分布状況を見ると、Abiesは全ての調査区で存在量が多くなっている一方、Picea類は約半数の調査区で分布ゼロ、あるいは存在量が極めて少なかった。各調査区における倒木の利用状況(全個体のうち倒木更新した個体の割合)は両グループで大きく異なり、Abiesでは0-58%と、ほとんど倒木を利用していない調査区があることが明らかとなった。一方、Piceaでは36-100 %と、どの調査区においても倒木がよく利用されていた。また、倒木の質とPicea類の混交量との関係には明らかな正の相関が認められた。以上から、倒木の質が倒木依存種の分布の制限要因となり、林分の樹種組成に影響を及ぼしている可能性が示唆された。


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