| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-10 (Oral presentation)

齢-サイズ構造モデルにおける不確実性を含む生活史の最適戦略モデル

大泉嶺*(北大 環境), 高田壮則(北大 環境)

個体群生態学において生活史と個体群動態の関係性を明らかにすることは重要な課題である.理論分野におけるその取り組みは決定論において数学的にどのような評価関数を最大にする生活史戦略が個体群増加率を最大にするかが示されている.その評価関数とは繁殖成功度を齢についてLaplace変換したものである.この関数は推移行列モデルやMckendrick方程式の解析から自然に導かれるもので、Euler-Lotka方程式を構成するものである.これら二つのモデルは共に線形であり状態が離散か連続かの違いでしかない.我々は個体群生態学に用いられるこれらのモデルを線形人口モデル(LDM)と呼ぶことにする.

近年、LDMを用いた実証研究は環境変動の個体群増加率への影響の解析に注目が置かれている.しかし、環境変動を確率的なノイズと捉えた場合、そこにはいくつかの場合が存在する.例えば、有限の人口のせいで引き起こされるノイズ、毎年の気候によるノイズ、個々体の採餌、繁殖行動、遺伝などがもたらす潜在的なノイズなどが考えられる.これらのノイズの原因を実際の野外調査のデータから見分けることは非常に難しい.Pfister(1998)は30種類の系統的に無関係な種について個々のLDMを用いた解析から、最も個体群増加率に寄与する状態への推移確率は分散が小さい事を発見した.この解析によれば生物は何らかの形で確率制御を行っていることを意味する.

そこで本研究では個々体が潜在的に持つ成長率のノイズに着目し、時間、状態ともに連続なLDMを構築した.そのとき、我々は新たなLDMの表現方法として経路積分による定式化導入し、サイズ成長が拡散過程に従う場合の評価関数の導出、最適生活史戦略の解析手法と決定論と確率論の相違を紹介するつもりである.


日本生態学会