| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-045 (Poster presentation)

酸素安定同位体比分析に基づく熱帯樹木の高解像度年輪指標の構築

*桐山貴衣(三重大・生資),松尾奈緒子(三重大院・生資),高梨聡(森林総研),小杉緑子(京都大院・農),中塚武(名古屋大院・環境)

樹木の年輪中のセルロースの酸素安定同位体比(d18O)はその樹木が吸っている水のd18Oと葉から輸送されてきたスクロースのd18Oによって決まる.葉で合成されたスクロースのd18Oは吸っている水のd18Oや相対湿度の環境要因と,葉温,気孔コンダクタンス,葉面境界層コンダクタンス,カルボニル基と水の酸素原子交換率といった植物の生理要因によって決まる.年輪気候学の分野では,吸水源のd18Oが降水のd18Oと等しく,植物の生理要因の時間変化がないものと仮定し,降水のd18Oが気温や降水量と関係があることを利用して年輪セルロース中のd18Oから古気候を復元する研究が行われてきた.しかし,湿度や降水量が変化すると植物の生理要因もそれに応答して変動する.

そこで本研究では,過去約20年分の微気象データ(環境要因)と樹冠上の二酸化炭素・水蒸気フラックスおよび樹冠内の層別ガス交換パラメータ(生理要因)の揃う半島マレーシア・パソ熱帯雨林に生育する樹木の円盤試料中のセルロースのd18Oを測定し,過去の環境変化に対して植物の生理要因がどのような応答をしていたのかを抽出する.

ただし,パソ熱帯雨林は緩やかな乾季・雨季はあるものの一年を通して気温変化が小さいため,樹木は明確な年輪を持たない.そこで,円盤セルロース試料を細かく切り分けてd18Oを測定することで得た高分解能の季節変動を,湿度,気温,降水量の季節変動やエルニーニョなどの気象現象の年々変動と照合することで高解像度年輪指標を構築した.


日本生態学会