| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-119 (Poster presentation)

哺乳類相の地域差によるイルカンダ(マメ科)送粉様式の変異

*小林 峻(琉大・院・理工),傳田哲郎(琉大・理),真柴茂彦(大分県),岩本俊孝(宮崎大・教育文化),伊澤雅子(琉大・理)

イルカンダMucuna macrocarpaは九州から東南アジアにかけて不連続に分布するマメ科の木性蔓植物である。本種はexplosive pollinationと呼ばれる特殊な送粉様式を持ち、堅い2枚の花弁(竜骨弁)が裂開することで初めて、雄蕊・雌蕊が露出し花粉が放出され、他家受粉が可能となる。竜骨弁は自然には裂開せず、そのままだと花は結実することなく枯れてしまう。これまでの調査により、沖縄島ではオリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusが特異的にイルカンダの花を裂開し、花の諸形質もコウモリ媒シンドロームに当てはまることが確認されている。ところが、植物食のコウモリが生息せず、本種の分布北限にあたる大分県蒲江においても、イルカンダの花が裂開し、結実することが確認された。蒲江における花の形態や夜間に強い匂いを出すという特徴は沖縄島と同じであった。蒲江における訪花動物の直接観察と自動撮影調査の結果、オリイオオコウモリに代わってニホンテンMartes melampusおよびニホンザルMacaca fuscataが裂開を行っていることが明らかとなった。ニホンテンはオリイオオコウモリと同様に夜間に訪花し、口先を花弁の間に押し込み旗弁を持ち上げることで花を裂開していたが、ニホンザルは日中に訪花し、両手を使って花弁を開くことで花を裂開していた。ニホンザルでは、裂開した花を花序からもぎとる、あるいは、裂開しないまま噛みちぎるなど、負の影響を与える行動も多く観察されたが、訪花頻度はニホンテンよりも圧倒的に高く、花の裂開数も多かった。これらのことから、イルカンダは分布の北限である蒲江において、コウモリとは全く異なる習性のニホンザルと新たなパートナーシップを構築しつつあると考えられる。


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