| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-130 (Poster presentation)

エゾシカの高密度化による植生破壊は,ヤブサメの生息地利用に影響を与えるか?

*上原裕世(酪農学園大学院・野生動物),玉田克己(道総研・環境科学研究センター),梶光一(東京農工大・農),吉田剛司(酪農学園大学院・野生動物)

シカ類が森林植生に与える影響は,世界各地で報告されている.国内でもニホンジカ(以下,シカ)の森林植生に与える影響を考慮して,個体数管理の必要性が問われるとともに,シカがもたらす植生改変について非常に着目されるようになった.一方で鳥類など,他の生物相へ与える負の影響に関してはいくつか報告されているのみで,依然として知見は少ない.

本研究では,シカによる植生改変の影響を受けやすいとされる藪性鳥類のヤブサメを調査対象種とし,シカが高密度に生息する環境において,植生改変がヤブサメの生息地利用に与える影響を把握することを目的とした.

調査地はシカが高密度に生息する,北海道洞爺湖町に位置する中島である.過去の調査結果より島内において,飛来して間もない4月中旬期にヤブサメが確認された地点から10地点を選択し,鳥類調査では2011年4月中旬から7月下旬にかけて各地点に録音機を設置し,早朝のヤブサメの囀りを記録した.また植生調査では同期間,10日おきに植生の種・植生高・被度を記録した.

2010年には,シカによる植生改変が著しい島内でもヤブサメの繁殖は確認されていた.しかし音声解析結果より,4月下旬から5月上旬にかけて囀りが確認された場所であっても,その後に繁殖せずいなくなる地点が確認された.これらを踏まえ,植生調査情報とヤブサメの生息の有無について,関連性の高い条件を統計分析にて予測した.

その結果,ヤブサメは他の藪性鳥類と異なり植生の種や高さによる影響は少なく,一方で植生被度により大きく影響されることが判明した.本発表では,植生とヤブサメの生息地利用について要因解析の結果を報告するとともに,シカが植生改変を介してヤブサメに与える影響について更に考察を進める.


日本生態学会