| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-152 (Poster presentation)

アリを撃退する送粉者:アリ植物オオバギ属の送粉戦略

*山崎絵理(京大生態研), 乾陽子(大阪教育大), 酒井章子(地球研)

熱帯地域では、アリと密接な相利共生関係をもつ「アリ植物」と呼ばれる植物が存在する。アリ植物はアリに営巣場所や食物を与える一方で、植食者からアリによって守られる。アリは植物の防衛に役立つが、繁殖においては、アリが植食者だけでなく送粉者までも追い払うために、アリに送粉を妨害されるというジレンマが存在する。本研究では、東南アジアに分布するアリ植物オオバギ属がどのようにこのジレンマを解消しているのか調べた。アリ植物オオバギ属は、花序で採餌・繁殖を行うDolichothrips属のクダアザミウマ科昆虫によって送粉される。多くのクダアザミウマが肛門からアリなどの天敵に対する忌避物質を分泌することに着目し、オオバギ属の送粉を担うクダアザミウマがアリ忌避物質を持つかどうか調べた。

まず、オオバギ属の共生アリが送粉を妨害するかどうか確かめるため、花序でアリ除去実験を行った。アリを花序から除去しても、対照区とクダアザミウマの個体数は変わらなかったことから、アリはアザミウマによる送粉を妨害しないことが示唆された。次に、実験室内でアリとクダアザミウマを出会わせるバイオアッセイを行ったところ、アリはクダアザミウマをほとんど攻撃せず、クダアザミウマから逃避する行動がよく見られた。この時、クダアザミウマが尾部を高く持ち上げ、肛門から液滴を分泌するのが確認された。また、この分泌物のみを抽出してアリに与えたところ、対照実験と比べてアリの逃避行動が頻繁に見られた。以上の結果から、オオバギ属の送粉者クダアザミウマは肛門からアリ忌避物質を分泌し、アリからの攻撃を回避していることが示唆された。オオバギ属では、このようにアリを撃退できる昆虫を送粉者とするようになったことで、アリとの密接な共生関係を安定的に維持できるのかもしれない。


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