| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-157 (Poster presentation)

種間比較に基づくカンコノキ属-ハナホソガ属共生系の維持機構の解明

*古川沙央里, 川北篤(京大生態研)

生物種間の共生系は自然界に広く存在し、しばしば生態系の維持に欠くことのできない役割を果たしている。しかし、相手から過剰に資源を搾取する個体が進化的に有利であるため、共生系は潜在的に不安定であると考えられる。そのため、共生系を安定的に維持する何らかのメカニズムの存在が予想されており、様々な実証研究が行われてきた。共生系の維持機構の一つとして、カンコノキ属−ハナホソガ属送粉共生系では、過剰な搾取を試みる個体に制裁が加えられる仕組みが知られている。カンコノキ属の一種ウラジロカンコノキは、ハナホソガ属の一種に送粉されており、送粉者であるハナホソガは幼虫期にウラジロカンコノキの果実の中で一部の種子を食べる。ハナホソガが一つの花により多くの卵を産んだ場合、ウラジロカンコノキは種子を残せなくなると考えられるが、ウラジロカンコノキは複数の卵が産まれた花を選択的に中絶することで、過剰な搾取をするハナホソガに制裁を加えている。カンコノキ属にはウラジロカンコノキの他にも多くの種が存在し、それぞれが異なる種のハナホソガと共生関係にあるため、本研究では本州に広く分布するカンコノキにおいて、同様の制裁機構が存在するかどうかを調べた。選択的中絶を行うウラジロカンコノキでは、ハナホソガは雌花あたり1卵しか産まないが、カンコノキでは雌花あたり2回以上産卵する場合がほとんどであった。一花あたりの産卵数の頻度分布を見ても、カンコノキでは卵の数が2個のものが多く、卵数が1個のものが多かったウラジロカンコノキとは産卵パターンが異なっていた。またカンコノキは花粉制限が強く、受粉した雌花を中絶せずに大半を果実にしていた。ウラジロカンコノキとは異なりカンコノキでは選択的中絶がおきていない可能性が高く、選択的中絶とは別の維持機構の存在が考えられる。


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