| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-170 (Poster presentation)

シマホルトノキにおける生育環境に応じた遺伝構造と分化維持要因

*須貝杏子(首都大・牧野標本館),鈴木節子,永光輝義(森林総研),村上哲明,加藤英寿(首都大・牧野標本館),吉丸博志(森林総研・多摩森林科学園)

海洋島で一般的な進化現象の1つとして,島内の異なる生育環境に適応した生態的種分化が挙げられる.生態的種分化は,地理的障壁による遺伝的隔離なしに,異なる生育環境間での分断化選択と同系交配を促進する交配前隔離によって引き起こされる.小笠原諸島は,東京から約1,000km南に位置する海洋島である.1つ1つの島の面積は比較的小さいが,複雑な地形に対応して様々な植生がモザイク状に配置しており,複数の生物群において生態的種分化が報告されている.

小笠原諸島に固有なシマホルトノキは,湿性高木林から乾性低木林まで幅広い環境に生育しているが,環境ごとの形態的差異は報告されていない.そこで,シマホルトノキ19集団639個体を用いて24遺伝子座のEST-SSRマーカーによる集団遺伝学的解析を行った.さらに,シマホルトノキが島の中で様々な環境に生育している父島において,開花期調査と土壌水分量,植生高の測定を行った.

その結果,父島列島内における生育環境間の遺伝的分化(0.005 ≤ FST ≤ 0.071)は,生育環境内の遺伝的分化(0.001 ≤ FST ≤ 0.070)より大きく,父島・母島列島間での遺伝的分化(0.033 ≤ FST ≤ 0.121)より小さかった.父島列島内では,空間構造とは独立して,生育環境に対応した遺伝的分化の存在が明らかになった.さらに,父島の遺伝的に分化したグループ間では,開花期にずれがあり,土壌水分量と植生高にも差がみられた.これらのことから,シマホルトノキにおいて,父島列島で2つの遺伝的に分化したグループが側所的に分布しており,それらの間では開花期のずれにより遺伝子流動が制限されていた.生育環境の違いが分断化選択を引き起こしているかは,さらに検討する必要がある.


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