| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-225 (Poster presentation)

パネルデータを用いた少子化に関する進化生物学的研究:日本人の出産に影響を与える変動要因の探索

*森田理仁,大槻久,長谷川眞理子(総研大・先導科学・生命共生体進化学)

出生率の低下により生じる少子化に見られるように,ヒトの繁殖戦略は進化生物学的に興味深いものである.ヒトの繁殖戦略の研究方法としては,ある年齢以上の人々がもつ子どもの数を適応度と見なし,その時点の状況が適応度に与える影響を分析することが成されてきた.しかしこのような方法では,結婚,出産,子育てといった出来事が生じた当時の状況の影響を分析することが困難である.この点を解決し,意思決定の時間的変遷を解明するには,同一人物を継続的に追跡して得られたパネルデータの分析が求められる.

本研究では,家計経済研究所が実施した『消費生活に関するパネル調査』のソースデータを用いて,ある年に出産が生じたかどうかに,その前年と前々年の生活状況の変化がどのような影響を与えているのかを,一般化線形モデルにより探索した.分析の対象は28歳から45歳の既婚の女性で,AICとAkaike weightを指標にモデル選択を行った.

現時点での主な結果として,年齢の二乗と出産の間には負の相関が見られた.つまり,年齢が増加するにつれて出産は急激に起こりにくくなり,ある年齢を過ぎるとそれ以降の繁殖はほとんど見込まれなくなるような閾値の存在が示唆された.このことから,初婚年齢や初産年齢が適応度に与える影響は極めて大きいと考えられる.また,世帯収入と出産の間には負の相関が見られ,資源量と繁殖成功の間に正の相関があるとする行動生態学から導かれる予測とは合致しなかった.しかし,現在社会においては単に収入を資源の指標として用いることは適切ではないかもしれず,協同繁殖の視点も含めたより詳細な分析が必要だろう.当日は現在進めている分析の結果も合わせて議論したい.


日本生態学会