| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-317 (Poster presentation)

冷温帯下部の一流域における里地里山のトンボ群集構造は何によって決まるか?

*荒川諒(信州大院・農),大窪久美子,大石善隆(信州大・農)

近年、里地里山地域における生物多様性の低下が問題となっており、特に水辺環境をハビタットとするトンボ類については、流域内での土地利用や農業形態の変化等の影響を受け、種の減少や絶滅が引き起こされている可能性が考えられる。そこで本研究では一流域内におけるトンボ類群集の保全策を検討するため、トンボ類群集の構造と立地環境との関係を明らかにすることを目的とした。調査地は長野県伊那盆地の新山地区で、代表的な土地利用を含む直径500m円を6地域選定した。トンボ類の調査は、各地域約200mのルートを10本設置し、ルートから半径5m以内に出現したトンボ類を記録するルートセンサス法で行い、2012年5月~10月まで各月2回調査した。全地域の総出現種数は8科38種で、トンボの環境指数(トンボの環境指数2007に準拠)の値は120だった。本指数は一般にやや自然度の高い池では約90~110で、調査地域はトンボ類にとって良好な環境が保たれている場所であると評価された。TWINSPAN解析の結果、全ルートは河川や水田、湿地、池などの各水環境が隣接する5グループに分割され、出現種はサナエトンボ科やトンボ科アカネ属などルート上の水環境によって6群に分割された。調査地域のような里地里山においては、点在する豊富な各水辺環境がトンボ類の種数を維持していた。その中でも、草刈りが行われる湿地ではハッチョウトンボ等が出現など、人為的な管理が良好な環境を創出していることも考えられた。また、各種群においてルート上に隣接する樹林や畦畔でも出現していた。このことから、各水辺環境に隣接する樹林や畦畔は、採餌や成熟の場としての役割がある一方で、日陰になる空間を作り出し、一部のトンボ類にとって重要な隣接環境と考えられた。


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