| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-360 (Poster presentation)

環境DNA分析の実用化:野外で使える前処理法の検討

*中貴文(龍谷大・理工),源利文(神戸大・人間),門司和彦(地球研),丸山敦(龍谷大・理工)

近年、環境中に浮遊するDNA断片(環境DNA)の解析を行うことで、生物の在・不在やバイオマスを推定する試みが生態学の実証研究におけるブレークスルーとして注目される。水域でも、魚類や両生類を含む幅広い生物群を対象とした研究が報告されている(Minamoto et al. 2012など)。しかし、水域に生息する生物を対象として環境DNA分析を行う際に採られてきた従来の手法は、保存や濃縮などのプロセスにおいて、野外での本格調査には不向きな点が多く見られる。そこで我々は、様々な現場に適用できる簡便な環境DNA分析法を確立すべく、幾つかの手法の比較検討を行った。実験1では、環境DNA濃縮段階における最適な濾紙の選定を目的とし、各種濾紙の環境DNA回収量の比較を行った結果、グラスファイバー濾紙GF/Fでポリカーボネート濾紙0.2μmメッシュ並みの回収ができた。実験2では、各種グラスファイバー濾紙の間でDNA回収量を比較し、GF/Fが最も多くのDNAを回収できることが分かった。実験3では再濃縮およびDNA抽出段階の処理方法として、フェノール抽出とエタノール沈殿の組み合わせ(以下フェノール処理と呼ぶ)と限外濾過でのDNA回収量の比較を行い、フェノール処理でも同等のDNAを回収できた。実験4では、冷蔵庫などの設備がない場所でも濾紙上のサンプルを安定保存させる目的で、試料水を濾過したフィルターをエタノール処理する方法を試行し、DNAの分解が十分に抑制されることを確認した。以上4つの実験結果より、環境DNA分析を水域に広く適用するためには、グラスファイバー濾紙GF/Fで濾過した直後にエタノール処理を行い、フェノール処理を行うことで、従来法と同等以上の高精度の分析が簡便に行うことが可能であると考えられる。


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