| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-380 (Poster presentation)

リュウキュウマツの年輪を用いた亜熱帯域の環境復元―酸素安定同位体比の分析から―

*飯島 友(千葉大院・園芸),庄建治朗(名古屋工業大),中塚武(名古屋大)

熱帯・亜熱帯林など明確な季節を欠く一年中温暖・湿潤な環境下の樹木は,明瞭な年輪を形成しないため,これらの年輪を古気候・古環境復元の代理データとして用いることは難しいとされてきた.近年,樹木年輪セルロースの酸素安定同位体比(δ18O)は,相対湿度や降水量の水文環境に反応することが報告されており,不明瞭な年輪であっても,δ18Oの測定によって水文環境の年々変動を復元できる可能性がある.本研究では,亜熱帯域の沖縄本島,南大東島,小笠原諸島父島に生育するリュウキュウマツPinus luchuensisを用いて,年輪セルロースδ18Oの分析を行い,不明瞭な生長輪がリュウキュウマツの年輪であるのか,また,亜熱帯域の年輪による水文気候環境復元の可能性を検討した.

沖縄本島,南大東島,父島において年輪コアを採取した.年輪コアは薄片を作成し,リグニン,ヘミセルロース,脂質,色素を除去して,板状のセルロースを抽出した.これらを実体顕微鏡下で,形成層から等間隔に切り分け,同位体質量分析システムを用いてδ18Oを測定した.δ18Oで示された変動は,実体顕微鏡で観察した年輪コア断面,および採取場所に最も近い気象観測所で観測された相対湿度の年々変動と比較した.

年輪セルロースから得られたδ18Oは,それぞれ周期的な年々変動を確認できた.δ18Oのピークが,みための生長輪の境目にあたり,年輪であることが確認できた.晩材から早材への移行があいまいな個体もδ18Oの年々変動が確認でき,リュウキュウマツは年輪セルロースδ18Oの変動によって,年輪の特定が可能であることがわかった.年輪幅の大きな個体では相対湿度との詳細な比較が可能であり,島ごとの年輪セルロースδ18Oと亜熱帯域の水文環境の対応を考察する.


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