| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-382 (Poster presentation)

霞ヶ浦における脱窒に対する溶存有機物の影響

*宮内龍大郎,大沢雄一郎(東邦大・理),野原精一,広木幹也(国環研),千賀有希子(東邦大・理)

脱窒は微生物による窒素浄化過程(NO3→N2)であり、富栄養化の影響を受けやすい水域でその把握が急がれている。これまで脱窒を支配する多くの環境因子が研究されてきたが、基質である有機物との関係、特に有機物の質を考慮した研究例はほとんどない。本研究では脱窒と有機物の関係を明らかにするために、霞ヶ浦における脱窒活性の変化と有機物量の変化を比較し検討を行った。また有機物の添加培養実験を行い、有機物の質が脱窒に与える影響を考察した。

脱窒活性の測定は霞ケ浦の堆積物と底層水にNO3を添加したアセチレン阻害法で行った。有機物量の指標として底層水の溶存有機炭素(DOC)と堆積物の強熱減量(IL)を測定した。有機物添加培養実験にはグルコース(Glu)、フェノール(Phe)、チロシン(Tyr)、キニーネ(Qui)、フタル酸 (Pht)を用い、添加したNO3が脱窒し得る100倍および1000倍の炭素量を添加した。

全体を通して脱窒活性とDOCおよびILに相関は見られなかった。堆積物のILは約50~80%であり、霞ケ浦の堆積物には有機物が豊富に存在することが分かった。従って、脱窒が進行するのに十分な有機物が存在するため、脱窒活性と有機物の間に相関が見られなかったと考えられた。有機物添加実験では、両炭素量ともGlu、Tyr、Pht添加の脱窒活性は増加するか同程度だった。一方Phe、Qui添加の脱窒活性は減少した。Glu、Tyr、PhtはPheやQuiと比べて単結合が多いため脱窒細菌に利用されやすいと考えられた。従って有機物の結合エンタルピーの違いが脱窒を支配すると推察された。この結果は、有機物の質として、分子量よりもむしろ構造の違いが脱窒に影響することを示している。


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