| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-390 (Poster presentation)

不耕起・草生栽培の経過年数に伴う耐水性団粒と土壌炭素の変化

*荒井見和,金子信博,廿楽法(横浜国大院・環境情報),南谷幸雄(埼玉自然博),渡邊芳倫(近畿大・農)

世界中の農地で,土壌侵食や土壌有機物の減少による土壌劣化が生じ,それを抑制するために不耕起農法が諸外国で導入されつつある.さらに,生物多様性が生態系機能を通して生態系サービスの供給に正の効果があることが認められるようになってきたが,農地土壌の多様性が持つ効果についての研究は少ない.不耕起化すると撹乱は減少し,ミミズなどの生態系エンジニアリング生物や植物根による耐水性団粒(WSA)形成などの土壌改変の影響が大きくなることが明らかとなっている.しかし,それらが不在となっても変化した土壌構造は長期にわたって存在するため,変動する生物や雑草で多様性を評価することは難しい.WSAは土壌粒子単体で存在するよりも土壌炭素濃度が高く維持されるために,土壌劣化と密接な関係を持つ.そこで,不耕起化にともなうWSAを考慮した土壌炭素の変化を評価する必要があると考えた.2011年5月に,三重県の慣行農法から不耕起・草生栽培に転換した経過年数の異なる(0,5,10,15,17年)ほ場で調査を行った.不耕起が開始されると,土壌炭素量は土壌深さ0−25cmで増加し,不耕起開始5年の土壌炭素量は0年の1.2倍となった.WSAは不耕起を継続して行うと,土壌0−15cmの深さで> 2mmが多くなった.雑草現存量は不耕起の経過年数とともに増加したが,ミミズ現存量・個体数や根量と> 2mmのWSAとの相関は認められなかった.したがって,雑草の地上部を持ち出さず,刈り取ってその場で分解させることが,土壌炭素源として有用であり,土壌炭素量を急速に増加させることが可能であることがわかった.また,WSAを評価することで,根や土壌生物の活動による土壌改変効果を明らかにし,生態系機能を生態系サービスに結びつけることが可能であると考えた.


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