| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-136 (Poster presentation)

南米アンデス山系の氷河後退域における標高傾度に着目した植生の変化

*廣田充(筑波大・生命環境系),吉田圭一郎(横国大・教育人間科学部),長谷川裕彦(山岳地理学研究所),水野一晴(京大・アジアアフリカ地域研究)

近年の温暖化による高山帯の急激な変化が懸念されている。特に、熱帯高山帯では残存する氷河が急速に縮小・消滅しつつあり、周辺生態系が急変する可能性が高い。実際にケニア山では、過去約50年間で氷河が急速に後退するとともに裸地化した部分に植物が定着し、植物の分布域の上昇が確認されている(Mizuno 1998, AAAR)。このように、熱帯高山帯では温暖化に伴う氷河後退によって、一次遷移が開始することが知られている。現在進行中の温暖化が熱帯高山帯に及ぼす影響を理解するうえで、生態系の基盤とも言える植生の把握は極めて重要である。しかしながら、熱帯高山帯に関するデータは少なく知見の空白域となっている。これを埋めるべく、演者らは南米アンデス山系の氷河後退域を対象として2012年より現地調査を開始した。

2012年8月に南米の赤道直下に位置するボリビアアンデス、チャルキニ峰(5329m)西カールで調査を行った。同峰の山頂付近には2012年時点で氷河が残存しており、西カールには形成年代が異なるモレーンが複数存在していた。本調査では、その中の5つのモレーンを選びその上部と下部で植生および礫サイズ等を踏査した。40mのラインを設置し、2mおきに1x1mの方形枠を10個設置して、枠内の植被率、出現種数、優占イネ科草本の株数、草丈および穂の有無、食被の有無、最大礫のサイズを調べた。

植被率は推定モレーン年代との関係が見られた一方で、出現種数は推定モレーン年代よりもむしろ標高との関係が見られた。また、モレーン上部と下部では出現種も大きく異なっていた。これらから、本調査地では標高傾度という要因に加えて、氷河後退とそれによって形成される微地形によって植生が異なることが示唆された。


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