| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-278 (Poster presentation)

巣材から見えるトキの環境利用―木材解剖学的分析による樹種同定―

*金子洋平,上野裕介(新潟大・朱鷺セ),能城修一(森林総研),永田尚志,山岸哲(新潟大・朱鷺セ)

鳥の巣は,種によって異なるが,動物質,植物質など様々な材料によって作られる.このうち,植物質材料は種類によって含有する化学成分や物理的強度が異なるため巣の頑強度や耐久度に大きく影響すると考えられ,巣材として用いる樹種を選択している可能性がある.しかし,これまでにgreen plantを除けば,植物質巣材の樹種同定を行った研究はない.また,巣材の樹種構成を明らかにすることで,鳥の造巣時における環境利用特性を明らかにできると考えられる.そこで本研究では,木材解剖学的解析を用いてトキ(Nipponia nippon)の巣材の樹種同定を行った.この解析は属レベルで樹種を同定できるが,巣の周辺植生を考慮することによって種レベルでの同定を試みた.

巣材の採取は佐渡島にある8巣を対象とし,2011年の繁殖期終了後に行った.巣は次年度に再利用する可能性があり,巣構造を破壊しないように合計81本を採取した.草本およびタケが10本あり、残り71本中68本は属レベルで識別できた.また,巣の周辺植生を考慮することで59本は樹種を特定できた.営巣地がコナラ林の場合はコナラが,クロマツ林ではクロマツが多く使われていた.一方,スギはスギ林であってもほぼ使われていなかったが,小枝は柔軟で折れにくいことに加え,枝打ちの不実施により林床に適当なサイズの枝が少なかったためだと考えられた.このことから,樹種選好性は無いと結論づけるが,今後さらに検証の余地がある.また,カキノキの果樹園近くの営巣地ではカキノキが巣材として使われており,巣の造成に重要なサイトであることが示唆された.また,タケやイチョウなど人間活動に関わりのある樹種が多く巣材として使われており,人間活動と営巣活動が密接に関係していることが示唆された.


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