| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-303 (Poster presentation)

ハゼ科魚類トウヨシノボリのオスの配偶者選択

高橋大輔(長野大・環境ツーリズム)

多くの動物で雄にみられる顕著な二次性徴形質は、雌を巡る雄間競争および雌の配偶者選択を通じた性淘汰によって進化することが数多くの研究結果から支持されている。一方、雄だけでなく雌においても二次性徴形質が発達する動物は多く知られているが、雄と比べると、雌の二次性徴形質の進化についてはこれまで注意が払われてこなかった。近年、雌の二次性徴形質に注目が集まりつつあり、その二次性徴形質の進化の説明が試みられているが(雄による配偶者選択を通じた性淘汰など)、未だ不明な点が多い。トウヨシノボリは日本の河川や湖沼に広く分布する淡水性ハゼ科魚類であり、雄はふ化するまで卵の保護を行う。本種は性的二形を有し、雌よりも雄の方が体サイズが大きく、また第一背鰭が伸長する。雌は繁殖期において腹部に青色の婚姻色を示し、雄の体サイズや背鰭のサイズに基づく配偶者選択を行うことが知られている。今回、トウヨシノボリの雌の婚姻色への理解を深めるために、雌の全長・婚姻色の発現の程度[婚姻色面積比(体側面積/婚姻色面積)、婚姻色の色相・彩度・明度]と体内卵数および生理的コンディション[生殖腺指数(生殖腺重/体重)、肝量指数(肝臓重/体重)]との関係性について調べ、また二者択一実験法を用いて雌に対する雄の配偶者選択性を検討した。偏相関分析の結果、雌の全長と体内卵数との間に正の関係性がみられたが、婚姻色の発現の程度と体内卵数および生理的コンディションとの間に有意な相関はみられなかった。配偶者選択実験において、雄は雌の婚姻色の発現の程度や、体内卵数の指標となり得る雌の全長に対する選好性を示さなかった。この結果は、トウヨシノボリの雌の婚姻色の進化を雄の配偶者選択によって説明することが困難であることを示唆する。発表では、本種の雌の婚姻色の進化のメカニズムを説明するいくつかの仮説について考察する。


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