| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-305 (Poster presentation)

マダガスカルのトカゲ類による未経験の警戒音声に対する反応

*伊藤亮(京都大・霊長研), 森哲(京都大・理)

動物の中には、他種の警戒声を盗聴する種が数多く存在する。他種警戒声の盗聴行動は、想定された本来の受信者でない動物が発信者の対捕食者警戒声を盗み聞きして、対捕食者行動を行うような行動である。マダガスカルに生息する鳴かないトカゲであるブキオトカゲOplurus cuvieriも同所的に生息するマダガスカルサンコウチョウTerpsiphone mutataの警戒声を盗聴する。本研究では、鳴かないトカゲ類による「警戒声」の認知という現象において、学習過程がどのように関与しているのかを明らかにすることを究極的な目的とし、まず、「ブキオトカゲが同所的に生息する鳥類の警戒声しか盗聴しないのか否か」を検証した。実験では、日本に生息するがマダガスカルには生息しないシジュウカラParus manorの警戒声とさえずりを、ブキオトカゲに対して再生し、その反応を比較した。その結果、ブキオトカゲはシジュウカラのさえずりよりも警戒声に対して多く警戒行動を見せ、シジュウカラの警戒声も危険を示す音声として認知することが示された。一方で、特定のさえずりの音源に対しても警戒行動を示す個体も確認された。シジュウカラの典型的なさえずりは「ツ・ツ・ピー」の3つのパートで構成される。「ツ」音は狭い周波数帯の音で構成されるのに対し、「ピー」音は広範な周波数を含む音であり、音の構造が警戒声の特徴と似ている。そこで、さえずりを「ツ」音のパートと「ピー」音のパートに分解して再生し、ブキオトカゲの行動を比較したところ、ブキオトカゲは「ピー」音に対して、より多く警戒行動を行った。これらの結果から、ブキオトカゲは広範な周波数を含む音声を警戒声として認知している可能性が示唆された。


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