| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-317 (Poster presentation)

ホンヤドカリのオス間闘争:その場にいないメスの影響

谷川大介, 安田千晶, *和田 哲(北大・水産)

ホンヤドカリ属では、オスが産卵間近なメスを交尾・産卵まで持ち歩く交尾前ガード行動を示す。ガード中のオスが別のオスと出会うと、しばしばメスをめぐって闘争が起こる。このような2個体間の闘争には、一般に資源保持能力と資源の価値が影響を与えるとされている。本研究では、ホンヤドカリにおけるオス間闘争の経緯と結果に影響を及ぼす要因を特定するために、室内実験条件下で連続観察をおこなった。野外で交尾前ガード中のペアを採集して実験室に持ち帰り、2ペアを1組にして、片方のペアを水槽に静置した後で、もう片方のペアからオスだけをメスから引き離して、挑戦者として水槽に加えた。観察時間は、挑戦者の活動開始時から15分間とした。その後、元のペアごとでメスが産卵するまで飼育して、各メスの産卵までの日数と全個体の体長を記録した。

その結果、ガード中のオスが大型のときは闘争が起こらず、闘争が起こるまでの時間を説明するモデルには、挑戦者の体長と、挑戦者がガードしていたメスの産卵日を説明変数としたモデルが選択された。一方、15分後の挑戦者の勝敗(挑戦者がメスをガードしていたか否か)には、2個体のオスの体長と挑戦者のメスの体長を説明変数としたモデルが選択された。いずれの解析でも、闘争行動の原因(資源)であるはずのメスの体長や産卵日がベストモデルの変数に含まれなかったことは興味深い。さらに本実験では、野外でガード中だったオスを用いたにもかかわらず、挑戦者が明らかに闘争に消極的であった例や、闘争してメスを奪った挑戦者が、その後、自発的にメスを放棄してしまう例が観察された。これらの行動にも、その場にはいない(挑戦者が実験直前までガードしていた)メスの体長が影響を及ぼしていた。


日本生態学会