| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-323 (Poster presentation)

農地利用によって喪われる出水撹乱への抵抗性~水生昆虫群集を用いて~

*末吉正尚, 石山信雄, 中村太士(北大農学院)

出水撹乱は水生昆虫群集にとって、死亡率を増加させる大きな撹乱となる。多くの研究が出水による個体数・種数の減少を報告しているが、一方で出水後の急速な回復も報告されている。加えて、予測性の高い季節的出水に対しては撹乱による減少自体が小さいことが報告されている。この出水撹乱への高い抵抗性の主要因の一つが河川の複雑性が作り出す避難場であり、水生昆虫は避難場を利用することで出水撹乱を避けることができると考えられている。しかしながら、近年農地利用による河川生息場の均質化が世界中で問題となっている。河川生息場の均質化は出水時の避難場を喪失させ、出水撹乱の影響をより大きくすると予想されるが、出水と農地利用の相互作用効果を検証した研究は非常に少ない。

本研究では、北海道北部の1流域を対象に農地影響が様々な地点において、春の融雪出水の影響評価を行った。農地影響を評価するため、各地点の集水域内の農地率を算出し、各地点内12コドラートにおいて水生昆虫採集と流速・水深・河床粒径サイズの計測を行った。また、河川の異質性を示す指標として各リーチ内の物理環境の変動係数を求めた。調査時期は出水前の2011年3月と出水後の5月であり、出水前後の種数の変化を明らかにした。

出水前データにおいて、農地率と変動係数は負の相関を示し、種数の減少を引き起こしていた。次に、農地率と出水前後の種数減少率の関係を明らかにした。農地率と種数減少率は負の相関を示した。農地が存在しない自然河川では、出水前後の減少率が0%の地点も存在したが、農地率が高い地点では約20%まで種数の減少がみられた。以上より、農地利用による河川均質化が自然河川のもつ出水撹乱への抵抗性を喪失させることが示唆された。


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