| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-324 (Poster presentation)

絶滅リスクを抑えるように保護区を選ぶ - 計算ツール MeBERA の開発

*竹中明夫,角谷拓(国立環境研),矢原徹一(九州大学)

一定の地域を保護区に指定して人間活動を制限することは、自然環境やそこに生育する生物を保全するために有効な方策である。地域をまるごと保全することで、生物の暮らしや、人間の認識が行き届かない種も含めた包括的な保全が可能になる。

保護区に設定できる面積には限りがあるのがふつうである。ならば、なるべく保全効果が高くなるように設定場所を選ぶ必要がある。たとえば日本の場合、種の多様性に緯度勾配があるので、単純に種の多様性が高いところを選んだのでは北方の自然が顧みられない。保護区のセット全体で相補いあって広汎な種・生態系を保全するという考え方が必要となる。すなわち相補性に留意した保護区の選択方法である。

一般的な相補性解析では、ある地域にある種が分布しているかいないかにもとづいて保護区の選択を行う。しかし、種の保全を目的とするならば、単純に多くの種をカバーするという考え方にとどまらず、種の絶滅リスクを減らす効果に留意して保護区を選定するのが合理的である。そこで、全国での多種の絶滅リスクを効果的に減少させるように保護区設定を求める計算ツールを開発した。

地域ごとの個体群サイズとその変化率のデータから局所絶滅確率を計算できれば、それにもとづいて広域の絶滅の確率も計算できる。保護区となった地域では局所個体群のサイズの減少が抑制されると仮定すれば、保護区設定による絶滅リクスの低減効果を評価できる。開発したツールでは、対象とする種群(たとえば維管束植物のレッドリスト記載種)すべての絶滅リスクの総計を評価関数とし、その最小化を実現する保護区のセットを求める。広域・多種を対象とするとかなりの計算量が必要になるが、数千区画に分布する数千種のデータの場合、パソコンでも数時間程度で保全の優先順位付けをすることができた。


日本生態学会