| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-344 (Poster presentation)

博物館標本から再現する明治から昭和前期の干潟環境 - 東京湾と大阪湾を中心に -

*石田 惣(大阪市立自然史博物館)

日本の自然環境の本来の姿を知るうえで、高度成長期以前の生物相の把握は重要である。過去の生物相を再構築する情報源としては、主として文献と標本が挙げられる。文献は生物相を網羅的に記録していることが多い一方で、同定精度の検証や隠蔽種の分離ができないといった問題がある。標本は同定を再検証できる一方で、生物相の記録としては断片的なことが多い。標本につきまとうこの欠点を補うことができれば、過去の生物相の情報としては信頼性の高いものとなる。そこで、博物館等の収蔵標本をできる限り広範囲に探索することで、高度成長期以前の日本の干潟における生物相がどの程度再構築できるかを試みた。分類群としては比較的標本が残っている貝類を対象とした。

その結果、現存標本が少ない明治〜昭和前期であっても、活動する研究者や採集者が多かった東京湾や大阪湾等では比較的多くの標本が残っていた。これらにはすでにその海域で絶滅した種や、文献で記録のない種も含まれていた。その種構成をみると、干潟の残存面積が大きい海域の現在の生物相と類似しており、当時そのような自然景観であったと類推される。また、採集数が多く海域内で複数地点の標本がある分類群(バイやハマグリ等の食用種、ウミニナ類など)では分布範囲の推定もある程度可能と考えられた。

一方、古い時期に地方・僻地で採集された標本では、多くの場合採集地情報の解像度は低く(例えば「琉球」など旧国名のみ)、点数が増えたとしても保全に有用な分布情報にはなりにくいと考えられる。全体的な傾向として、ラベルに記される採集地情報の解像度が上がるのは戦後以降であり、その点では昭和20〜30年代の標本の重要性が高いといえる。このような標本群から得られた興味深い生物相情報の例についても紹介する。


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