| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-357 (Poster presentation)

東海地方のため池におけるヨシノボリ類の遺伝的かく乱

古橋芽,古田莉奈,*向井貴彦(岐阜大・地域科学)

東海地方の伊勢湾・三河湾周辺には固有の動植物が多く見られ,トウカイヨシノボリは岐阜県・愛知県・三重県の丘陵地から平野部のため池と小水路に生息する地域固有のハゼ科魚類である.トウカイヨシノボリは2005年まで近縁種のトウヨシノボリと混同されていたため,詳細な分布や生息状況は把握されていない.しかし,三重県鈴鹿市のため池群ではトウカイヨシノボリとトウヨシノボリの雑種化が確認され,トウヨシノボリの分布拡大によって地域固有のトウカイヨシノボリの生息地が減少していることが示唆された(向井ほか,2012).そのため,本種の保全のために伊勢湾・三河湾周辺地域におけるトウカイヨシノボリの分布と遺伝的かく乱の現状を早急に明らかにする必要がある.

本研究では,2005年から2012年に岐阜県と愛知県のため池(約30地点)と小河川(約20地点)でトウカイヨシノボリと近縁種の採集を行い,色斑とミトコンドリアDNA(mtDNA)による種同定をおこなった.色斑は個体ごとに生時の写真を撮影して記録した.mtDNAはND5遺伝子の部分塩基配列約1000bpを決定した.調査地全体では,トウカイヨシノボリ,トウヨシノボリ,シマヒレヨシノボリ,ビワヨシノボリ,カワヨシノボリ,シマヨシノボリの6種のmtDNA型が見られたが,種間交雑が生じうる複数種の混在が示される場所が6地点あった(トウカイ+トウ2地点,トウカイ+シマヒレ1地点,トウカイ+ビワ1地点,トウカイ+トウ+シマヒレ2地点).そのうちの4地点では,個体の色斑的特徴とmtDNA型が一致せず,交雑が進行していることが示された.また,岐阜県可児市のため池群ではトウヨシノボリのmtDNAのみ見られたが,色斑にはトウカイヨシノボリもしくはシマヒレヨシノボリの特徴が現れており,雑種群の可能性が示唆された.


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