| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-464 (Poster presentation)

間伐がヒノキ葉の窒素濃度および炭素安定同位体比に及ぼす影響

*稲垣善之,野口享太郎,宮本和樹,奥田史郎,野口麻穂子,伊藤武治(森林総研)

ヒノキ人工林において間伐を実施すると、残存木にとっての光、水分、窒素資源が増加し、水分や窒素の利用効率に影響を及ぼすと考えられる。本研究では、高知県のヒノキ林において、間伐前後のヒノキ葉の窒素濃度と炭素安定同位体比の変化を明らかにした。6つの処理区(高標高地域では無間伐区、35%間伐区、50%間伐区、50%列状間伐区、低標高地域では、無間伐区、50%間伐区)について20m×20mの調査区を3繰り返しで設定し、2008年生育期前に間伐を実施した。間伐前の2007年と間伐翌年の2009年の夏にスリングショットを用いてヒノキの葉を採取し、窒素濃度および炭素安定同位体比(δ13C)を分析した。その結果、18林分のヒノキ葉の窒素濃度は2007年に7.9~13.4mg/g、2009年に7.7~12.7 mg/gを示した。2時期の窒素濃度の変化量は、-1.2~+2.1 mg/gであり、2007年の窒素濃度が低いほど、間伐率が大きいほど2009年に増加する傾向が認められた。間伐前に窒素制限を受けている林分ほど間伐後に窒素吸収量が増加することが示唆された。ヒノキ葉のδ13Cは2007年に-28.6~-26.9‰、2009年に-28.6~-26.9‰の値を示した。δ13C の2時期の変化は-0.9~+1.5‰であり、間伐率が大きいほど、2007年のδ13Cが低いほど、2007年の窒素濃度が低いほど2009年に増加する傾向が認められた。間伐後のδ13Cの変化には2つの要因が重要であることが示唆された。すなわち、間伐前に水分利用効率が低く、水分ストレスが顕著でない林分で、間伐後に水分利用効率が増加するためにδ13Cが増加すると考えられた。もう1つは、間伐前に窒素制限の強い林分で、間伐後に窒素の吸収量が増加し葉の光合成活性が高まることによってδ13Cが増加すると考えられた。


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