| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-483 (Poster presentation)

チベット高山草原における標高差に沿った土壌有機物の諸特性

*飯村康夫,大塚俊之(岐阜大・流圏セ),曹广民(中国科学院),賀金生(北京大),廣田充,下野綾子(筑波大・生命環境),唐艶鴻(国環研・生物)

チベット高山草原は土壌炭素蓄積量が多く、現在も炭素吸収源として機能しており、重要な生態系として注目されている。一方で、高山草原は地球温暖化などの環境変動の影響を受けやすいことが指摘されており、チベット高山草原生態系でも温暖化等の環境変動に対する応答の解明が急務となっている。一般的に土壌は地上部バイオマスよりも3倍程度の有機態炭素を保有しているため、土壌炭素動態の変化は生態系における炭素フラックスにも多大な影響を及ぼすことが予想される。本研究ではチベット高山草原において土壌中の炭素動態を左右する重要なファクターと考えられる土壌有機物の量および質を標高差に沿って明らかにすることを目的とした。

調査は2011年7月に中国青海省の海北試験地近郊にある高山斜面(3600-4200m)で行った。200m毎に調査地を設定し、各地で10点、5m間隔でA層土壌を採取した。採取した土壌はA層厚(cm)、有機態炭素・窒素濃度(%)、腐植酸黒色度(A600/C)を測定した。また、既存の腐植酸黒色土と13C NMRスペクトルの関係式を用い、各種官能基炭素割合(%)を推定・比較した。

A層厚は3600-4200mに沿って87-11cmと明瞭に薄くなっていた。有機態炭素濃度も標高が上がるにつれ5.6-0.9%と低下した。CN比は3600-4200mに沿って低くなる傾向を示した(12.6-10.9)。土壌腐植酸の質は4200mで有意に芳香族炭素割合が高く、Alkyl C:O-alkyl C比が低かった。以上より、4200m以外、特に3600mと3800mでは分解ポテンシャルの高い有機物が多量に保有されている傾向が認められ、環境変動の影響をより受けやすいことが示唆された。


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