| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S01-7 (Lecture in Symposium/Workshop)

土壌生物群集のめくるめく超複雑ネットワークに生態系動態の真髄を見る

東樹宏和(京大・地球環境)

土壌中の生物群集は、生態学者が地球上で遭遇する最も複雑で全体的理解の難しいシステムの一つである。ひとつまみの土の中でさえ、数え切れない種数の難培養性生物が存在する。ひとつの森の中でいったい何種の真菌や微生物、節足動物がいるのかを問うても、種数の桁さえ推定できていないのが現状である。まして、その生物群集内の種間相互作用ネットワークの構造と安定性を評価することなど、これまでは夢物語にさえなりそうになかった。しかし、次世代シーケンサーを始めとする新しい多様性探索ツールの登場によって、この状況は打開できる可能性がある。講演者らは、次世代シーケンシング(大規模DNA配列決定)とネットワーク理論を融合させることにより、地下生態系の生物間ネットワークを一挙に解明する手法を開発した。植物とその根に共生する多様な真菌類の共生を対象とした研究では、数日程度の野外調査を基礎として、数十種の植物と数百種の真菌の共生ネットワークを解明することに成功している。興味深いことに、推定された種間ネットワークの構造は、これまで地上や水域の生物群集で報告されてきたネットワークの構造と異なる特徴を有していた。この成果によって、生物群集における新しい型の多様性維持機構を提案できる可能性があり、実証と理論の両面からさらなる研究を進めている。戦慄を覚えるほどの超多様性に敢えて挑むことではじめて見いだせる生態学の基礎原理がきっとあるはずである。未知の多様性が眠る微生物群集は、理論の検証に不適な「複雑すぎる」系から、標準化された手法で群集構造を調査できる「最適な系」へと変貌しようとしている。解析技術が整った今こそ、基礎生態学の根本的な問いに挑戦し、生態学の裾野を拡げていきたい。


日本生態学会