| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S02-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

福島県高放射線量地域のゴール形成アブラムシに多発する形態異常と遺伝的影響

秋元信一(北大・農)

福島第一原子力発電所の事故によって広範囲に飛散した放射性物質が生物にどのような影響を及ぼすかを客観的に評価する試みは、現在、喫緊の課題である。本研究では、放射線に影響されやすいと考えられる生物を用いて、形態的変異に焦点を絞って調査を行った。アブラムシ科ワタムシ亜科のヨスジワタムシ属Tetraneuraに注目し、越冬卵から孵化してくる1齢幼虫の形態を、福島県川俣町の集団(空間線量4μSv/h)、北海道の集団、千葉県柏の集団の間で比較した。さらに、原発事故以前に採集された多量の博物館標本との比較を行った。

アブラムシは春から秋まで無性生殖的に増殖し、常にメスの腹部には成長中の胚子が含まれる。福島の孵化幼虫は、原発事故以来、初めての有性生殖の結果出現した世代であり、それまでの無性生殖の過程で蓄積されてきた遺伝的変異が特定の個体に集積されている可能性がある。また、孵化幼虫(1齢幼虫)に注目しているために、成虫まで到達できない虚弱個体や形態異常が検出できる可能性がある。孵化幼虫は、体長が約1mmで、孵化後ハルニレの新葉に閉鎖型のゴール(虫こぶ)を形成し、その中で成長・繁殖する。

福島の集団では、北海道や柏の集団と比べて、高い頻度で形態異常が見いだされた。捕食によらない死亡個体の割合も高かった。形態異常はいくつかのカテゴリーに分類できたが、この中で高度に異常を示す個体が約1%含まれた。これらは、2つの分岐した腹部、脚状突起、腫瘍状組織によって特徴づけられた。軽度の異常としては、脚部の萎縮、成長途中での付属肢の欠損が含まれた。全体として、福島の集団では10%の個体に異常が認められた。ところが、無性生殖によってゴール内で産出される第二世代には、全く形態異常が認められなかった。世代間の差から、「原因物質」の作用の仕方を考察する。


日本生態学会