| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S11-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

有肺類の鏡像個体群の存続と適応進化

浅見崇比呂(信州大・理)

動物界では一般に、内臓が左右反転した集団は進化していない。対照的に巻貝では、内臓を含む体全体が左右逆に発生する鏡像種が進化した。巻貝のほとんどのグループで、交尾器は、右巻では首の右側、左巻では左側にある。このため、右巻と左巻の交尾は物理的に難しい。交尾個体のどちらもが同時に雌雄二役を果たして精子を交換する有肺類(カタツムリ・ナメクジ類)では、求愛・交尾にいくら時間をかけても、逆巻変異体と野生型が交尾できなかった例が数多く報告されている。したがって、他の要因がないかぎり、正の頻度依存淘汰により、集団は右巻か左巻のどちらか一方に固定すると予測される。これは、巻貝の種の9割以上が右巻であり、交尾して繁殖するグループでのみ左巻がくり返し進化した事実と合致する。ところが、有肺類では、右巻と左巻が共存する左右二型種も繰り返し進化した。東南アジアに分布するマレイマイマイAmphidromus属の左右二型種では、ほとんどの地域で左巻と右巻が共存する。自然状態で右巻と左巻の交尾がランダム交尾よりも高い頻度で観察された事例から、右巻と左巻が選択的に交尾する可能性が示唆されてきた。しかし、他の巻貝と同様にマレイマイマイでも、求愛・交尾を当初から観察するのが困難なため、互いを選別するか否かはもとより、物理的に難しいはずの右×左をどのようにして達成するのかはまったくわかっていない。タクミマレイマイマイを用い、全暗条件で赤外線微速度撮影を継続することにより、求愛・交尾行動の撮影に成功した。結果として、同じ巻型どうしでも、異なる巻型どうしでも、他の有肺類で報告されてきたような複雑な求愛ステップを経ずに交尾することがわかった。交尾行動のパターンから、異なる巻型どうしの場合には、相手の巻型(交尾器の位置)を認識した上で交尾を達成していると考えられる。


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