| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S13-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

藻類色素の光吸収スペクトルを用いた数理モデルによる南極湖底藻類マットの群集形成及び呈色構造の解明

水野晃子(国際水研)

南極の湖沼群では、湖底に繁茂する底性藻類やコケ類、バクテリア等がマット状群集を形成することが知られている。この湖底群集マットは色素層を形成し、上から順に黄色、黄緑、緑、深緑となる。この色素パターンは、表面の藻類がカロテノイド類などを多く含み、下層の藻類がクロロフィル類を多く含むことで生じる。表層のカロテノイド類は、藻類が強光による光合成阻害を防ぐために持つものであると考えられており、下層の藻類は、表層の藻類のカロテノイド類によって強光が弱まることで活発に光合成できることが分かっている。なぜこのような一見互恵的にもみえる鉛直方向の色素保持パターンが、競争的な群集で見られるのだろうか?

我々は、この湖底藻類群集マットの色素層構造の形成メカニズムを明らかにするため、光合成に関連する生化学を基礎とした光合成速度を求めるモデルを構築した。このモデルにより光合成と光防御に使われる2種類の色素の最適な色素吸収スペクトルを求めてきた。(結果の詳細は本シンポジウム全発表の「光資源を巡る競争と植物群集のビルドアップ:南極湖底藻類マット構造と光吸収・防御スペクトルの進化」にて紹介)。

次に、この基本モデルを使って実際の藻類が持つカロテノイド類、Scytonemin, MAAなどの光防御色素やクロロフィル、カロテノイド類の光合成色素の吸光スペクトルパターンを用いてより現実的な解析を行い、藻類マットの存在量パターンを、競争シミュレーションの結果と比較した。光防御色素であるカロテノイド類、Scytonemin, MAAは、順に防御する波長が短くなるが、これらの3つの環境光の強さに対する鉛直パターンを解析した。また、実際の湖沼群では、湖底群集マットはさまざまな硬さ、厚さを持つため、この微細なパターンの違いが、どのような環境要因によって左右されているのかについて解析を行った。


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